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Naoto Naoto Hieda

メディア・アート産業について

メディア・アート産業について

東京オリンピックが一年延期されるというニュースを聞いて、2年前に向井さんと話していて「オリンピックが終わったらメディア・アートの仕事なくなるよね」と言われたことを思い出しました。

それを聞いた瞬間「この人は何を言っているのか」と思ったのですが、それを飲み込んで考えてみたところ一理あると理解しました。ちょうどその頃は私もフリーランスとして体験型の広告系インスタレーションの開発などに携わって今までで一番(そして今現在の何倍も)稼いでいた頃でしたし、向井さんもチームラボに入って既に活躍していた時期なのでそう言われたことには驚きました。しかしよく考えてみると、ちょうど業界のバブルの時期でもあったのではないかと思います。それから渋谷の再開発などもあって店舗や娯楽施設でのインスタレーションの需要は増え、メディア・アート産業のバブルはそれからもしばらく続いています。ところで、アートと産業を結びつけるのは変な気もしますが、広告業界とまとめてしまうには現場の人たちの技術的、そしてアーティストとしてのスキルに依存している面が大きいのでクリエイティブ・コーディングを使った広告系インスタレーションの開発などを私はメディア・アート産業と勝手に呼んでいます(検索にかけてみたところ白井先生の「メディアアートと産業」という講義の案内がヒットしたのですが、まさに私の指している内容でした)。

そして皮肉にも向井さんの予言はコロナウイルスによって早まることになりました。オリンピック自体は延期になりましたが、芸術系を含むイベントは日本では自粛という形で、欧米では明確に禁止されることになってしまいました。現在日本で働いているわけではないのでメディア・アート産業自体で案件がキャンセルになったりどれだけ打撃を受けているのか具体的なことはわかりませんが、広告費の予算など経済的な影響も考えるとこれから大規模なインスタレーションを制作する機会などは縮小していくのではないでしょうか。そしてヨーロッパにおいても「Horizon 2020(ホライゾン2020)」と称して EU が多額のデジタル・アートを含む技術研究全般に予算を充てていたため、三月以降の公演が中止になり制作もままならない現状、デジタル・アート全体が冬を迎えるのか、あるいはネット・アートの方向に行くのか気になっています(とはいえ、自分自身の制作の方向性はある程度固まってきているので流されずに地道にやっていこうと思っています)。

コロナウイルスの影響がなかったとしても、「オリンピック後」にバブルは弾けていたのでしょうか。あるいはコロナウイルスの流行が収束してからメディア・アート産業は持ち直すのでしょうか。チームラボなどの功績でメディア・インスタレーションが日常の一部になりつつあり体験型の広告はフィジカルなものからスマートフォン向けのアプリまで浸透し始めていますが、次第に飽きられていくのか、あるいは安いコピーが増えて単価が安くなっていくのかは分かりませんが、新しい価値を作り出すとはいえその財源を広告に頼っている以上は天井があると思います。

私自身の現状についてはこちら(英語)に書いたりポッドキャスト(日本語)でも話したのですが、ドイツでシアターや大学の公的・文化的なプロジェクトなどにメディア・アーティストとして関りながら、今年は助成金をいただけることになりアーティストとして生き延びています。以前助成金をいただいた時もうれしさの反面、それ以後どうやって食べていくのかという不安がありました。当時はその後、綱渡り的にフリーランスとして活動を続けることができましたが、今回の助成金の後、来年になって同じようにまたフリーランスとして生活できる確証はありません。それについての直接の答えにはなりませんが、現在はコミュニティ・ビルディングとして Processing プログラミング言語を中心に日本やドイツ、北米のユーザとやりとりしながら既存の学校や機関に依存しない新しいコミュニティを作ることに重きを置いています。コミュニティというコネクションがあれば仕事が見つかるというと安易に聞こえますが、仕事だけでなく困ったときに相談できるプロフェッショナルな仲間がいることは大事です。勘違いされがちですが、コネクションというのは相手が自分の存在を知っていることではなく、そのネットワークの中で自分がどのような貢献をしているか知っていてある程度信頼してくれていることであって、そのようなコネクションを広げていくのは必ずしもビジネスの場ではなく、オープンソースであったりアートの交流の場なのではないかとこれまでの活動から考えています。

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