2022年にやったこと、やっていること
2022年の近況報告です。2021年初めにソーシャル・メディアをやめてしまったのでそれから謎の人になってしまいましたが、地球の反対側で生きています。現在も2019年に入学したケルン・メディア芸術大学のマスター・コースに在籍しています。とはいえ、去年の11・12月に一時帰国していたこと、今年の2月から6月は後述するドルトムントでのプロジェクトがあったこと、そして8月から交換留学をしているためケルンの大学からはしばらく離れています。11月になってようやく修士論文と卒業制作のプロポーザルを提出して、来年には卒業する見込みです。
リモート展示ではありますが、2017年に助成金をいただいた縁でポーラ・ミュージアム・アネックスにて展示をする機会をいただきました(写真クレジット:ポーラ・ミュージアム・アネックス)。12メートルの大型バナーに加えて建設用の足場を発注することになり、その際には Processing Community Japan 様にご協力いただきました。銀座での展示ということで知り合いの方々にも見に行っていただけて、メディア的な表現を逆手にとって印刷することで「グラフィティみたい」「物理的にでっかく印刷してそれを『作品』として扱っていたのがかっこよかった」など反響もありとてもいい機会でした。展示前の一か月ほどはギャラリーの担当者様と仮設資材リースの担当者様との連絡の取り次に追われ、今まで作った作品の中でも特にマネジメント要素が強い作品になりました(英語ですがプロセスはこちらに書きました)。始めに足場の見積もりをいただいたときは60万円といわれてぞっとしたのですが、ドイツで展示のたびにスポンサーを募ってハングリーに活動している友達のことを思い出して、妥協せずに自分でも打てる手をすべて打つことで展示を実現することができました(あと、帰国していたときにカレーを食べながら相談や愚痴に付き合ってくれたおかちほさん本当にありがとう)。
2月から6月の5か月にわたり、ドイツのドルトムントのアカデミー・フォー・シアター・アンド・デジタリティという施設で制作をしました。年2回程度入れ替わりでアーティストらが入ってきて制作をするレジデンス施設で2020年には2回ほど別のアーティストのプログラミングの手伝いで訪れたことがあります。今回は自分自身のプロジェクトということで「GlitchMe3D」というタイトルで、アルゼンチンのアーティスト、フロール・デ・フエゴとともにハイドラを使ったライブ・コーディングを中心にどのようにステージにデジタル表現を持ち込むかの研究とクリエイションをしました。これだけで論文がかけるテーマ(実際に書いているところ)なので端折って書きますが、 Flok というコラボレーション用ライブ・コーディング環境(こちらの日本語チュートリアルでも最後に紹介しています)を拡張しながら DMX 照明をハイドラと連動させたり、ドーム状の360度スクリーンに投影させたりとツールを作ってライブ・コーディングにフィードバックしていくというプロセスでした。
始めはストラクチャード・ライト(古き良きスキャニング手法で、応用としては openFrameworks を使ったカイルの実装が有名)を使ってマスクを生成しハイドラに取り込んでプロジェクション・マッピングをしていたのですが、時間が経つにつれ正確なマッピングや複雑なパターンではなく、上の写真のようにプロジェクションは簡素なものにして、ステージ上のものを動かすことや照明の角度をつけて奥行きを出すなどフィジカルな工夫をして表現をするようになりました。ライブ・コーディングの表現を突き詰めていった結果、コードで「大きな赤い四角を描く」ことが最後のパフォーマンスになったのは興味深いです。
映像だけでなくプリントやおもちゃのロボットなどフィジカルな要素にもいくつも取り組みました。ハイドラの基本パターンである「OSC」(サイン波)を大量にリソグラフで印刷して壁に敷き詰めて貼ったり、カーソルの形をアクリル板からレーザー加工機で切り取ったり、おもちゃの犬のロボットに DC モータ用のドライバを取り付けて MIDI で操作できるようにしたり。
ちなみにこちらのプロジェクトでもバナーを発注しました。ステージ全体がブラウザという世界観で、それを一目で見てわかるようにするためのツール・バーのスクリーンショットです。もともと GlitchMe というタイトルのウェブ作品を作っていて、ステージ上なので 3D をつけるという安易なネーミングだったのですが、実際に 3D であることがプロジェクトの大きなテーマになりました。そしてアドレスにある 3d.glitches.me ですが、こちらのポートフォリオは Airtable にアップロードしたコンテンツを自動的に表示するようになっています。このワークフローはドルトムントでのプロジェクトの後でも度々使っていて重宝しています。
プロジェクトの終わりには他のレジデンス・アーティストらと私たちのステージの上で集合写真を撮りました。ただ、ここでは書けないことがいろいろあったレジデンスだったので、私のポーズが表現しているようにいい思い出も苦い思い出もたくさんあります。
プロジェクトが終わった後の7月はハンブルクのフェスティバルに呼ばれたり、フランスの田舎でカオス理論を学んだりしました。写真はそのフランスで、施設の周りの牧場や森の中を散歩していたときに撮ったものです。
8月からは交換留学で一学期の間、南米コロンビアのボゴタに来て、コロンビア国立大学のシアターとライブ・アーツの修士課程に参加しています。パフォーミング・アーツに特化した修士課程で、半年間デジタル表現にエネルギーを費やしてきたこともあり今回は身体表現のみでソロのダンス作品を制作することにしました。たどたどしいスペイン語で話しながら日本語とスペイン語で言葉遊びをしたり、これまで学んだ動きに焦点を当てるということでカナダで踊っていたソーラン節(南中ソーラン)やワークショップでのウォームアップをパフォーマンスに取り入れたりと人生のスナップショット的な作品になりました。
また、修士の発表の当日は「足跡」としてパフォーマンスの背景のテキストやスケッチなどを紹介する必要があったので、私はパフォーマンスを行ったアトリエで同時に個展を開くことにしました。とはいえこれまでつくってきたものはドイツや日本に散在していて展示できるものは限られていたので、こちらに持ってきたリソグラフのプリントやこちらの大学で受けているリトグラフ(昔ながらの版画的な印刷手法)の実習で刷ったプリント、折り紙、落書き、トロピカル・フルーツ、集めている派手な服、ネイル落としに使った綿などをかき集めてスペースを埋めました。
中でもハイライトは soup.glitches.me というネット・アート作品です。7月にドイツで助成金をいただいて制作を始めた作品で、 Airtable を用いて人生で印象に残っているものやイベントなどをデータベース化し、独自のフルスタックのプログラムでウェブ・サイトとして閲覧できるようにしています。今回はラップトップを置いてサイトを見られるようにしただけでなく、展示版としてサイトを印刷したものとそれぞれのエレメントをトレーディング・カード風に印刷しました(フロント・エンドの JavaScript と CSS を使ってバッチ処理的に印刷レイアウトをデザインしました)。こちらは文章量があるだけでなく遊び心もあったおかげか、来ていただいた方々が一番時間をかけて見てくれた作品です。また、パフォーマンスを作り上げる中でもこのデータベースが大きな役割を果たしました。なのでパフォーマンス自体は体一つで行いましたが、その裏側にはやはりプログラミングの存在がありました。
最後に、2022年につくってきたものがスケッチなど含めて一目でわかるようにカレンダーをつくりました。こちらもやはりフロント・エンドでプログラムを書いて、データはハイドラの記録や Youtube などからかき集めました。