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Naoto Naoto Hieda

商業案件とアーティストとしての活動

商業案件とアーティストとしての活動

Natalie Sun (ナタリー・サン)がホストで Reza Ali (レザ・アリ)Kyle McDonald (カイル・マクドナルド) がゲストのポッドキャスト(英語)を聞いたので気になったことをまとめて最後に自分のコメントを書きました。

お二人ともロサンゼルスを拠点としているメディア・アーティストで、レザは openFrameworks のユーザには ofxUI ライブラリがよく知られているのではないでしょうか。カイルは openFrameworks の開発や、近年はライゾマティックスとのコラボレーションの discrete figures の機械学習のディレクションなどを行っています。レザとお会いしたことはないのですがカイルとはお話しする機会が何度かあって、私のプロジェクトについて話していると次から次へとリファレンスが出てきて頭の回転のずば抜けた人という印象でした。

ポッドキャストのタイトルは “Juggling Commercial vs. Personal” ということで、意訳すると「商業案件とアーティストとしての個人的なプロジェクトのバランスをいかにとるか」といったところでしょうか。商業案件と個人的なプロジェクトの違いは、会社のための仕事か、あるいは自分のための仕事かということですが、個人的なものであっても予算のある小さなチームで行うことはありますが、それは商業案件とは違ったものととらえているようです。仕事の割合についてレザは9:1、カイルは7:3とのこと。クライアントをとる仕事の比重が多きなるのは生活のためだったり学生ローン(日本でいういわゆる奨学金)を返すため、あるいはお金をためてオフをとるをためなど。

二人に一貫しているのは企業とのプロジェクトは必ずしも悪いものではない、ということです。例えばカイルの場合、ロゴをつけないように取り合ったりオープン・ソースにすることを条件にしたりと商業案件での立ち回り方を他のアーティストから学んだそうです。また、Spotify でレジデンスをしていた時に周りのエンジニアと話す機会を活かしたりと、アーティストとして助成金をもらってプロジェクトを行う上では得られないようなインスピレーションもあるとのこと。Google など軍事に関わってる企業との仕事は倫理的な疑問も残るようですが、例えば Google 内でも倫理に反する契約をしないよう求める人も多く、そういった声も踏まえてこの企業は倫理的かどうかとはっきり線引きはしないようにしているそうです。このような問題についても友だちのアーティストらと話し合える環境を持つことが重要です。そして何より企業に魂を売らないよう、自分にとって健全な働き方を見つけるにはやはり先輩のアーティストに相談して学ばなければなりません(そして、例えば請求書の書き方など学校で教えてくれないこともそういった人たちに聞くべきです)。レザの場合は初めての仕事はインスタグラムを見た会社からデータ・ビジュアライゼーションを頼まれたそうですが、見積もりの仕方が分からなかったので企業の方から10時間で1000ドル(約10万円)と良心的に決めてもらえたそうです。

これからの活動については、二人とも今後もツールを作ってオープンに公開することや教育に注力したいと話していました。カイルによるとオープン・ソースにすることに抵抗があるアーティストもいますが、誰もが何かのツールをダウンロードして始めたことを考えるとコミュニティに還元するのは当然なのではないかという意見でした。今後メディア・アートの道に進みたいと思っている人たちへのアドバイスとしては、お二人を含めてコミュニティの人にアドバイスを乞うこと。直接質問をすれば人だったりリソースだったりを紹介してくれることが多いので、それが一番の近道ということです。

レザとカイルの話を聞きながら、私も確かにアーティストとして現在活動しているのはお世話になった先生方から学んできた(あるいは盗んできた)おかげだと感じました。カナダにいたころジュディス・ドイルというトロントのアーティストの手伝いをしていたのですが、制作への向き合い方といった精神的な部分から助成金の申請書の書き方などプロジェクトの進め方の実際的なことも学んだため、その経験がなければ現在の活動は大きく違ったものになっていたのではないかと思います(早くからネットアートにも着手していた先生で、今になって私がネットアートに関わり始めたのは偶然ではないでしょう)。そして商業案件に関しては以前何度か記事に書きましたが、生活のために必要だし時にインスピレーションにつながることもあるものの、そういった案件に依存せずに活動するのが重要だと考えています。カイルやレザも話していましたが、オファーがあっても見極めて自分のアーティストとしての価値を守らなければなりません(そして私の場合はモントリオールにいた頃、アーティストで経営者でもある一世代上の友人に何度も相談させていただきました)。それらを踏まえて、私にできることもコミュニティに還元していくことだと思っているので、ぜひ PCD Tokyo の活動などチェックしていただけたらと思います。

最後に、カバー画像はお二人が立ち上げや開発に大きく関わっている openFrameworks のサンプル・コードにある computeShaderParticlesExample のスクリーンショットです。

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