行動規範について
「黒瀬陽平と合同会社カオスラによるハラスメントについて 」について少し議論になって、自分の立場で考えたことを記事にすることにしました。まず、前提として私は件のハラスメントは到底許せるものではなく記事を読んだうえで被害者側に一切落ち度はないと考えており被害者を全面的に支持します。以下では特に私の関わっているコミュニティの活動に書いているためもともとの記事の内容からは大きく逸れることもありますが、これを期に自分なりに現在の活動で何を改善できるか考えました。
私は2019年ごろから日本、ドイツやオンライン上でクリエイティブ・コーディングのコミュニティ向けにイベントを行っています(Processing Community Day Tokyo 2019、2020、Processing Community Hangout (英語)等)。その中で特に注意していることは行動規範(Code of Conduct コード・オブ・コンダクト)を明確にすることです。 PCD Tokyo では会場の Yahoo! Lodge の行動規範に則りイベントを行い、最近のオンラインでの活動ではベルリン行動規範を用いています。もともと私も何度か参加していたクリエイティブ・コード・ベルリンが採用していることで知ったのですが、トップページに簡潔にまとまっていることと英語の他に8か国語の翻訳があることやオープンソースに関する記述があることからもいいリソースだといえます。
私が行動規範を意識している理由の一つは今まで参加していた北米などのコミュニティでいち早く取り入れられていることや、コンテンポラリー・ダンスのコミュニティにも参加することが多く、そこでは特にジェンダーや肌の色に対する差別が起きないよう注意しています。オフラインのイベントで行動規範が明示されることは稀ですが、北米のオンライン・イベントでは行動規範だけでなく “Land Acknowledgement” としていま自分たちの立っている土地がもともと帰属している民族について感謝をすることが通例です。
実際に私がイベントの運営を行う場合、全員に行動規範を確認してもらうことをお願いしたうえで、些細なことでも自身や他人に何かあれば運営に伝えてもらうよう話しています。また、私自身が男であり話しづらいと感じる場合も多々あると考えられるため、どの運営メンバーにでも相談してくださいと話すようにしています(そして、前提として大がかりなイベントを男性のみの運営では絶対にやらないようにしています)。これはもともと Processing Community Day Tokyo を行う際に発案者のアメリカにある Processing Foundation が各国の運営者向けの冊子 (PDF)を用意しており、その中の行動規範を参考にしています。
ただ、先の例に戻って、具体的に何かあったときにどう対応するかのイメージはしていませんでした。ベルリン行動規範では「容認できない行動の結果」として
スポンサーおよび意思決定権を持っている人を含めたコミュニティ・メンバーによる容認できない行動は許容されません。そのような行動を止めるように求められた人はすぐに遵守しなければなりません。
コミュニティ・メンバーが容認できない行動をした場合、主催者は警告なく一時的な出入り禁止(有料イベントの場合は返金もなし)またはコミュニティからの永久追放も含め、妥当と判断される措置を講じます(英語原文と日本語訳をもとに筆者により編集済)
とあります。また、 Processing の冊子とその元になっている XOXO では、
If a participant engages in harassing behavior, XOXO may take any action we deem appropriate, up to and including expulsion from all XOXO spaces and identification of the participant as a harasser to other XOXO community members or the general public.
もし参加者がハラスメント行為をした場合、 XOXO は全ての XOXO のスペースからの追放も含め妥当と判断される措置を講じ、参加者をハラスメント加害者として XOXO コミュニティのメンバーと一般の人々に周知する(筆者抄訳)
とより踏み込んだ対策が書かれています。また、 Sketch Meetup では
Event organizers may take action to redress anything designed to, or with the clear impact of, disrupting the event or making the environment hostile for any participants.
イベント運営者はイベントの妨げになったり環境が参加者の敵になるようなもとになっている事柄を改善するための措置を講じる(筆者抄訳)
とイベントの改善をすることを組み込んでいますが、総合すると基本的には「行動規範を設定することで運営はベストを尽くしているので出入り禁止・加害者についての周知以上の措置は取れない」ということなのかもしれません。
一方で、残念ながら行動規範が破られてしまい解散することを選んだミートアップもあります。ベルリンのクリエイティブ・コーディングのグループで毎月行われていたのですが、行動規範が守られなかったこと、そして安心して参加できるイベントを運営することが難しくなったことを理由に解散することを選んだとのことでした。とてもインスパイアされるグループで非常に残念だったのですが、ウェブサイトに行動規範が明記してあるとはいえイベントの都度それを参加者に確認しなかったのは改善できた点かもしれません。もし確認していれば未然に防げたか、何かあった際にも大きな問題になる前に加害者を出入り禁止にする等対策できたかもしれませんが、詳細は私も知らないですし落ち度があるのは加害者であり運営ではないと思っています。
とはいえ、カオスラの件のように運営側や雇用主に問題がある場合(例えば行動規範があるものの形骸化している場合)が一番厄介です。ベルリン行動規範には先の引用のように「意思決定権を持っている人を含めたコミュニティ・メンバーによる容認できない行動は許容されません」とあり(当然ですが)運営を含めてハラスメントを禁じていますが、そのような場合は告発する以外に報告して自浄を促すことは難しいですし、私もこれを危惧しています。「男性としてコミュニティを率いること」の問題点として常に意識はしているのですが、これについて以前カイル・マクドナルドからコメントをいただきましたので最後に紹介したいと思います。
there is nothing wrong with leading! sometimes privilege gives us a chance to start a powerful movement. but great leadership also means knowing when to give that power away, to find a new leader, and put your privilege to work for them.
— Kyle McDonald (@kcimc) June 30, 2020
率いることに問題はないでしょう。特権があることが大きなムーブメントを起こすきっかけになることもしばしばあります。ただ、すばらしいリーダーシップとは、その力を譲り渡し、新しいリーダーを見つけ、そのリーダーのために特権を利用する、そのタイミングを知っていることでもあります(筆者抄訳)